私たちの目の前にある地面には、一本のバラが突き刺さっていた。







「全く、君たちはなんて野蛮なんだろうね?」
「な!?」

 バッと後ろを振り返ったらなんとそこには…

 背後にバラをしょった金髪の男が優雅に立っていた。
 身長は高く、その顔は女の子であればだれもがときめくであろう甘さをただよおわす王子様顔。
 そして、当校ではどこぞの委員長を含め決められた制服を着てこない奴が多いのだが…この
 男も例にもれず、白い学ランのようなものを着ていた。
 男が、少したれている目を細めニッコリと笑った瞬間、花びらが舞い…

「目が…目がぁああ!!」

 私の目がつぶれた。

「何この男!? まぶしい!! 目が…目がつぶ げふうっっ!!!」

 ガコン

 雲雀のトンファーがクリティカルヒットしたおかげで私は地面にしゃがむ。
 いたいぃい!!

「女の子相手に君はひどいねぇ」
「…このバラは君の仕業だろう」
「君ではない。僕の名は来栖(くるす)という」

 下から雲雀を見上げると彼はギラリと男を睨んでいた。
 さっき私の頬をかすめたバラはどうやらこのキラキラ男が投げたものらしい。
 な!! こいつ紳士面してるくせに私の頬に傷つけたのはお前なんかい!
 男は気にせず、おもむろに手を背に回すといつの間にか両手いっぱいにバラを持っていた。手品師なんだろうか。

「ああ、なんて美しい…世界中の美がここに集約されている。バラこそが世の中で一番美しい花なのさ
 …梅や雑草なんかより。そう思わないかい?」
「…何よそれ…もしかして緑化委員に金を渡して今まで学校を荒らしていたのはあなたなの?」
「おや、聞こえが悪いなあ!荒らしてたなんて…僕はただ、この平凡な学校を美しくしていただけさ。緑化委員長としてね」
「緑化委員長!?」
「そういえば…草壁が今度の緑化委員長は転校生だと言っていたな」

「その通り…僕が転校してきたからには、学校は美しくあるべきだ!なのにこの学校ときたら田舎もいいとこ…ひまわりやパンジーなどどこに気品がある? 花同様、この学校には野蛮な奴ばかりさ。植物と人は表裏一体…気品のある花には美しい人が集まるもの。だから僕は決意した!僕がこの学校を美しくしてあげようとね!幸い僕にはありあまる財力がある。さあ緑化委員達よその古くさい梅を
切ってしまいなさい!ここはバラ園にします」

 ばっと男が高く薔薇をかかげると校舎の陰からばらばらとノコギリを持った10数人の男達が出て来た。
 そこには弱みを握られた緑化委員達だけでなく昼間、煙草の件で逃げた男達もいた。
 彼らは復讐できるのが嬉しいのかニヤニヤしながらノコギリを梅の木にあてていく。

「ちょ、そんな勝手なことさせな…!!」
「動かない方がいいですよ」

 校舎裏から再び2人の男が出て来たが、その腕にはわたしの親友である生徒会長が掴まれていた。

「生徒会長!」
「ごめん、。捕まっちゃった」

 生徒会長の腕はきつく後にまわせれており、声はいつも通りだったが額には汗が浮かんでいた。
 きっと痛いのを我慢しているのだろう。
 その時、ギコギコと木を切る音が耳に入ってきた。
 梅の木を見ると男達が木を切り始めている。私はとっさに隠し持っている鎌を出そうとしたがその瞬間生徒会長のうめき声が
 聞こえ、唯一の武器を地面に置いた。

「悪い…。記録を見て緑化委員が何か企てているのに気がついたけど、遅かった」
「生徒会長のせいじゃないよ…」
「ふふふ、安心したまえ生徒会長に美化委員長!ここはすぐに美しいバラ園に生まれ変わるさ!」

 手を出せないのを知って、わはははっざまーみろ!と笑いながら男達は梅の木を切っていた。
 幹の部分はまだ時間がかかりそうだったが、枝が落ちていく。

 梅の時期ではないため花はついてなかったけれど若々しい緑の葉がゆれた。

 卒業した先輩を私は知らないけれど、時々、訪れる卒業生が懐かしむようにこの梅の木を見上げて微笑むのを私は知っていた。

 花壇だって、植えた人がいれば水をあげる人だっている。

 また一つ枝が切り落とされ、浮かんだ人々が消えた。 


 …私が植えたひまわりも生徒達のリクエストの一つだった。
 花が咲いた時、ありがとうと言ってもらえてとても嬉しかったのを覚えている。

 
 学校は、皆の思い出の場所なのだ。多くの笑顔がある場所なのだ。

 
 私の、
 
 大好きな学校なのだ…。



 こらえきれなかった涙が、目から一粒、ポタリと地面にシミを作った。

 

 

 ガカっ

「ふぎゃ!!!」

 
 ドン!



 目のはしを白いものが走った。と思ったら、激突音が聞こえ校舎を見るとそこには緑化委員長の来栖が壁にめりこんでいた。

「げほげほっ、はっ…ぐう…、風紀委員長…」
「雲雀!」

 そういえばこいついたんだ!! 存在感を今まで消していたくせに…恐らく雲雀がこの来栖を投げ飛ばしたのだろう。
 手にはクルクルと回っているトンファーがあった。
 そのまま再び、来栖に近づいていく。

「そ、それ以上近づいたら、生徒会長がどうなるか分かっているだろうな!?」
「どーでもいい」
「なんだとっ!?」

「雲雀…」
「あいつ…風紀の予算下げたろか」

 そうだ雲雀はこういう奴だった…。緑化委員長…転校生とはいえなんともリサーチ不足である。
 しかしそれでは困るのだ。なんてったって、人質は私の親友でもある生徒会長なのだから。
 冷静な生徒会長のこめかみに血管が見え隠れした。実質、生徒会長であるこの親友も雲雀には頭があがらないのだが行事などの雑務 は生徒会がさせられており、なんだかんだでこの親友もうらみつらみがあるのだろう。

「別に僕が痛めつけられるわけじゃないし…それに、ねえ。分かってる? このナルシストを噛み殺したら次のターゲットは君たちなんだけど」

 ギラっと血に飢えた野獣のように雲雀はあたりを見回した。
 木を切っていた男達や生徒会長の腕を掴んでいた男達の身体がこわばる。
 彼らは本能で察した。逃げなければならないと。しかし蛇ににらまれたカエルのように足がすくんで動けなかった。

「ちょ、ちょっと待て!! 君がここまで強いのは予想外だった!! だから僕は提案する!! 聞けば、学校を含めこの並盛を仕切っているのは君なんだろ ? ならば援助だってそれなりにいるはずだ。どうだろう? 僕は君の良いスポンサーになれると思うのだけど…」
「なるほど、それはいいね」

 こうなってはもはや本当に紳士のかけらもない。雲雀の言葉に来栖は目の輝きを取り戻した。

「風紀委員長、では手始めに僕達の好きなようにこの学校を…」

「だが」


 

「僕は草食動物と手を組む気はないんだ」







 ドガン!!!

 雲雀の投げたトンファーが見事、クリーンヒットし、緑化委員長はバラの花びらと共に散った。
 花びらが舞う中、雲雀はゆっくりと梅の木に群がる男達を振り返り、ニヤっと笑う。

「っっっ!! ぎゃあーーーー!!」

 男たちはいっせいに呪いがとけたかのように走り出した。

「逃がすかぁ!」

 私は地面に放った鎌の刃の部分を踏みつけ空中に飛ばしパシっと手に持った瞬間、生徒会長を掴んでいた男達に向かって投げた。
 鎌はクルクルクル!っと円を描いて回り込み男達の目の前の壁につきささる。
 ひいっと彼らがおののいた隙に間合いを詰め、襟を掴むとそのまま背負い投げた。
 その勢いでさらに両手を手に着くと勢いをつけもう1人に蹴りを下から入れ、立ち上がった。
 ドォンと受け身をとれなかった男達が地面に突っ伏した。

「会長、大丈夫!?」
「なんの、これしき」

 会長の腕は赤くなっていたけれど、無事そうで私は安心した。

「ふぎゃん!!」

 声の方を見ると、雲雀が最後の1人を噛み殺し終えた所だった。
 私が2人をのしている隙に雲雀はもう山を築いているのだからこいつの力は底知れないと思う。


 何はともあれ、これで一件落着だった。














「はー、今日も暑いなー」
「ねえ、。ここの肥料はこれでいいの?」
「うん、それをここの土に半分混ぜて…」

 私は今、生徒会長と一緒に花壇造りを行っている。
 やっぱり学校は緑であふれていないとね!
 他の花壇も美化委員、緑化委員と一緒に綺麗に植え変えているところだ。
 残念なことに、花壇を荒らした主犯の来栖はなんのお咎めもなしな上、緑化委員たちもしらばっくれている。
 まあこうして元通りにするのを手伝ってくれているからいいのだけど…
 にしても、来栖という男、財力だけでなく多少の権力という名のコネがあるらしい。

「でもなんだかんだでさー、来栖もにくめない奴だと私は思ってるんだよね」
、それはちょっと甘過ぎるんじゃない?」
「だってあいつ言ってたじゃん。学校を美しくするって。気持ちは同じなんだよね」
「でもやり方は許せないわ」
「まあね…今回は雲雀がいて助かったかも。あいつも桜切られてご立腹だったんだねぇ」
「は?桜まで被害にあってたのは聞いてないけど?」
「…ん?」
「それに桜なんてまだいっぱいあるじゃない」
「…んん?そうなの?」

 あれ?でも雲雀が確か、お気に入りの桜を切られてそれで…でも確かに無くなっている桜の木はないし…ただの枝?
 そんな細かいこと気にするのかな…
 と思っていたら突然、生徒会長が立ち上がった。

!私、委員達が植えている花壇をちょっと見に行ってくる」
「え」

 私も、と言う暇もなく会長はかけて行った。会長が走るなんて珍しいなあ。
 それじゃあまあ、土も出来たし近所のおじちゃんに分けてもらったこの花たちを植えますか。
 よっと腰をあげようとしたら後からふいに声をかけられた。

「何してるの」
「ヒヒヒヒ雲雀!」

 びっくりしたー!振り返って見た雲雀は半袖だった。いつも上着を肩にかけていたが今は無く、涼しげだ。
 ちらっと鎖骨が浮き出る首もとが見え、またグルン!と勢いよく前を見据えた。
 耳がたぶん赤くなっているだろう。ふっと、軽く笑った声が聞こえた気がした。

 何しにきたんだろうかこいつ…。何するわけでもなく雲雀は花壇をじいと見つめているようだった。
 私も徐々に緊張がとけ、花たちに手を伸ばしてもくもくと作業をする。

「またひまわりを埋めるの?」
「うん、前のは根こそぎとられて枯れちゃってたから」
「ふーん…そういえば君、中学にも埋めてただろう」
「ひまわり、好きなんだよね。元気いっぱいでさ。並盛の町の皆みたいじゃないか」
「…ふ、どこぞのナルシストのようにひまわり園でも作る気かい」
「いやいやいや!他の花も好きだよ!」
「そ」
「うん」

 ざあっと風が吹いて首をなでていった。まだ初夏だったが陽射しが強く、その風は気持ちよかった。
 なんとなく今なら聞けるきがするな。


「雲雀はさー」

「雲雀は本当はなんで今回の事件解決したかったの?」





「…ただ」

 じゃり…と靴と地面がすれた。

「バラよりひまわりの方がいいと思っただけだよ」




 横を向いたらいつのまにか近いところに雲雀がいた。
 私と同じようにしゃがみこみながら手を頬にあてていてその口元は少しほほえんでいる。
 私の頭は真っ白で…あの緑化委員が微笑んだ時はバラの花びらが舞ったけれど、この時は音も何もかも消えて
 私はただ雲雀の顔に、つまり見とれてしまっていた。

 気のせいかその距離は少しずつ近くなっているかのようで…

 雲雀の口が開く。

「ねえ」


「そろそろ僕達、付き合おうか」




 美化委員長さん  

 














「・・・・・・・・・・・・・・・・はあ!!?」


 熱中症ではなく別の要因で倒れそうになったのはその10秒後で。
 ふらつく中、雲雀の顔を見たら面白そうにものすごくいい顔で笑っててすごくムカついた

 けど

 この顔に弱い私はどーしようもないな、と思った。








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べったべたのラブコメを書いて見たかっただけである。