まず学校に 来て、そうそうにびっくりしたのは
 学校側の反応だった。



「あああ!雲雀さんっどうぞこちらへ!ささっ」

 上の台詞、一教師が言ったものではない。校長だ。ずいぶん腰の低い校長でびっくりした。
 普通、転校生というものは職員室に言って担任と出会い、「よろしくなっ」とかいって爽やかに挨拶し合うものではないのだろうか。
 私が通されたのは豪華なお客様用のお部屋だったが、部屋の名前は第三会議室だった。この学校には応接室といったものないのかな。

「あ、あのーほんとっお構いなく」

 どえらい学校にきてしまった!そんな気分だった。私は豪華なソファーに座らせられ、壁にはずらりと教師が並んでる。
 え、どの人がわたしの愛する担任?まさか選択式!?

「初めましてっ雲雀さん!! 私がこの学校の校長をやらせて頂いている者です!以後宜しくお願いします!!」
「こ、こちらこそぉ!おおお世話になります宜しくお願いしますっ」

 つい気合いが入ってしまった。何だこの空気!

「そして担任は私が請け負わせて頂きます!以後、お見知りおきを!」
「こ、こちらこそっ」

 泣きたくなってきた。よろしくな!ていう爽やかな妄想は綺麗に消えた。
 もしかして、こっちの学校というものは こんな感じなのだろうか?私いなか者?
 フレンドリーな空気にちっともならなくて、そればかりかとても重苦しい緊張した空気。都会が恐いっていうのはきっとこうゆうせいだ。
 私はこの学校でやっていけるのかまたしても不安になってしまった。ああ、でもわたしにはいとこがいる…!

「あ、あの、この学校に私のいとこの雲雀恭弥君て子がいると思うんですけどクラスって」
「も、もちろん同じですともお!!」
「あああ、元気よくこりゃどうも…」

 良かった、同じなのか。
 もうそろそろHRの時間になるらしく私は担任とともに会議室を出て教室へ向かうことになった。
 出る時、なんと教師陣がいっせいに敬礼してくれた。「…どえらい学校にきてしまった…」今度はうっかり声に出た。




「雲雀です、父の仕事の関係で沖縄から並盛に引っ越してきました。この辺のこと全然知らないので教えてくれると嬉しいです。
 趣味は弓道と散歩と読書です。宜しくお願いします」

 たくさんの転校で自己紹介は慣れたものだった。
 最初、教室に入ってきた時、クラス中がシーンとしたけれど変に緊張することもなく、挨拶できたと思う。
 この中に、初めて会ういとこがいると思うとすごくドキドキした。
 自己紹介したあと、なぜか皆がいっせいにほっと力を抜いて笑ってくれたのも嬉しいことだった。
 良かった、なじめそう…!

「そ、それじゃ、雲雀さんはあそこの空いてる席の隣で」
「あ、はい」

 隣の子、お休みなんだ。残念。担任がいつもの連絡をし始めた。わたしは転校のたんびに感じていたあの高揚感でわくわくしていた。
 これから未知の世界に入る、そんな感じだ。期待と不安が入り交じっていて、どうなるかは私次第。面白いじゃない。
 クラスの中を眺めていると、急に斜め前に座っている男の子が振り向いて小さな声で話しかけてくれた。

「おれ、佐藤。宜しくなっ」
「うん、宜しくっ」

 初めて爽やかな挨拶ができた!

「お前の名字、雲雀だけどあの風紀委員長と全然違うのな」
「恭弥君のこと?へー風紀委員なんだ。どんな人?」
「どんなっておま、俺が言うのか?むりむりむり。会ったことねーの?噂でいとこって聞いてたんだけど」
「残念ながら…」

 すると佐藤君だけでなく他の人達も話しかけてきてくれた。

「そうなんだ…!びっくりして損したー、ちゃんて風紀委員長とは関係ないのね。あ、私立花夕子っていうの宜しくね」
「うん、宜しく」
「たぶん会った時、驚くぜー、俺、大田」
「ていうかあいつには近づかない方がいいよ、僕は中村」
「え、恐い人なの?」
「恐い人というかなんというか…ねぇ?」
「ていうかそこの席よ、ちゃん」

 え!?
 この空いてる席が恭弥君なんだ、まさか病弱で学校休みがち・・いやいやでも母さんが言うようじゃそうゆう子じゃないみたいだし。

「きっとそのうち分かるよ」

 クラス中の子が頷くので、その時を楽しみにすることにした。




 案外それは早く訪れたのだけど。

 嬉しくも、今日のうちにクラスにとけこめ、中でも立花夕子って子とはすごい仲良くなれた。
 そして理科のため、教室移動中、急に夕子が立ち止まり青い顔をして廊下の先を見ている
 ので私も見てみると。

 不良の子たちが何人か倒れていて、その中心に学ランを着た人が立っていた。
 2、3人が起き上がりまたその人に殴り掛かろうとするが、一瞬にして何かキラリと光る棒みたいなもので返り討ちにあい、再度床に沈んでいった。
 その人がゆっくりこっちを向く。風紀の腕章をつけてる。ああ、そうか、もしかして。

「雲雀、恭弥君?」

 夕子が後ろから袖をひっぱるのが分かったけれど、目がはなせない。
 恭弥君は私が声をかけると、なんとニコリと笑った。

、よく来たね。会えて嬉しいよ」




 恐怖心がわき上がるよりも先に、私は全身黒に覆われた恭弥君を見て、

  
 沖縄の夜に見るあのキラキラと光る海を思い出していた。






 

Next    Top