「大丈夫よぉ、並盛中学にはあなたのいとこ、雲雀恭弥君て子がいるはずだから、すぐお友達ができるわぁ」
マーマ、そのお陰で私、よりいっそうお友達できなくなってしまいましたよー。
拝啓、いとこ殿
あなたに会うのをとても楽しみにしています。 より
私は少し前まで沖縄で暮らしていた。父が自衛隊で働いていたから、何度も転校を繰り返している。
行くとこはいつもたまたま海が近くて、私は海とともに成長した。とくに夜に見る海がとても好きだった。
夜、土手を歩くと、海は黒曜石のように黒く深くキラキラと光る。夜空と海の境目は消えて、どこまでも続く輝く黒が好きだった。
沖縄には一番長く住んでいたのだけど、私はあまり日焼けすることはなかった。そういう体質みたいだ。
熱くてもすっきりとした気候と、人柄もよいこの土地が気に入っていた。
母は中々いい所のお嬢さんだったようで、父とは駆け落ちのすえ結ばれたらしい。
長い間、父と母は祖父に連絡を送っていたが返事が帰ってくることはなく、母方の血族とは連絡が途絶えていた。
しかしこの間、とうとう母方の祖父が病に伏してしまった。もうあまり長くはないそうだ。
結婚して初めての連絡がその件についてだった。
母はそれはもう泣いたに泣いた。嬉しさと悲しさで。
しかし、祖父も年をとり丸くなったのかこの件をさかいにまた親子の縁が復活したのは良い事だった。
祖父は医者でもあるが社長でもあったらしく、病院を経営しつつも会社をいくつか持っていた。
会社の方は、母の兄が継いでいたが、病院は祖父が現役で続けていたらしい。私の父は、防衛医大出身の医者だ。
そんなわけで、祖父は父に目をつけ、代わりに病院を担ってくれるよう依頼がきた。 また、父もそれを受け入れた。
長い間、絶縁だったというのに、よく父を信頼できるものだと思う。
両親の努力は意外と実っていたらしい。
かくして
悲しいが、私たち一家はこの住み慣れた沖縄から去り、この祖父ーーー雲雀一族の本家が住む町にやってきたのだった。
海が、近くにないのがとても残念だ…
さて、今日から並盛での新しい生活が始まる。転校初日だ。
父はもうすでに出かけたらしく、リビングに行くと母が朝ご飯を用意してくれている所だった。
椅子に腰掛けながら、目下の悩みを母に相談することにした。
「私、人見知り激しいんだけどなぁ。母さん新しい学校てどんなですか」
「並盛中学というからには皆、温厚そうじゃないの。大丈夫よ、は可愛いから!」
「そうゆうの子びいきって言うんだよ」
母は着物を着ていた。久しぶりに本家に帰れるから浮かれているらしい。
先日、初めて祖父に会ったが、なるほど頑固そうな人だった。けれど母を見る瞳は優しく、言葉は少なかったが喜んでいるようだった。
恐らく素直になれなかったのだろう。父も母も笑っていた。
父の両親は若い頃に亡くなっており、私は初めて自分の祖父に会ったのだが頭をなでるその手は大きく、温かかった。
お見舞いに行ったのはこちらだったのだが、なぜか色々と逆に手みやげを持たされる始末。
有名なブランドのケーキや、ぬいぐるみ…母と私が好きなものだった。
もしや、この祖父、母を溺愛していた? だからこそ駆け落ちも許せなかったんだなー
私は母のついでか分からないが祖父にとても優しくされ、初めの感覚で背中がもぞもぞした。
今まで駆け落ちという形をうちの両親はとったから雲雀家の方からは一切援助とかそうゆうものはなかった。
けれど、父が病院を継ぐことになり事態はいっぺん、今までだってふつーのいい暮らしをしていたけれどそれとは比にならないくらいの
生活になってしまった…。
また、祖父だけでなく他の親戚達は祖父以上に、そして私達の想像以上に厚く迎え入れてくれたのだった。
母は、生まれ育った土地に戻ってこれて、またいつでも本家と行き来できるようになったせいか生き生きしていた。
「あ、そうそう。あなたの従兄弟のね、雲雀恭弥君て子もそこに行ってるんですって。同じ学年よ」
「!?」
私はびっくりして耳を疑った。
「え、私って従兄弟いたの!?今まで知らなかったよ!」
「私もよ、ついこの間知ったから…でも、だからほら、親戚の子がいると思うと心強くない?」
「う、うん…!」
すごい嬉しかった。私は親戚に会ったとはいえまだ一度も同じ世代の子どもとは会ったことなかったから。
従兄弟がいるなんて信じられないくらい嬉しい。しかも同じ年だ。すぐに仲良くなれるかもしれない。
「どんな子か知ってる?」
「聞いた話によると、頭もよくてスポーツも万能だそうよ。人柄もいいのかしら、たくさんの人に敬われているそうよ」
「へーっ心つよーい!会えるのすごい楽しみっ」
安心した私は、元気よく学校に向かうことができた。心強い従兄弟のおかげで。
しかし、ある意味本当に心強いいとこと出会い、
ママ、私沖縄に戻りたい…
と思いなおすまで、そんなに時間はかからなかった。