僕はトンファーを振り下ろし、ピっと血をはらった。
地面に小さな血痕がいくつもできたけれどそれはすぐに土に吸収され、黒くなる。
僕はその跡をみることもなく、携帯を開いて着信履歴に残っていた番号に電話をかけた。
「…二号館の校舎裏。一体。頼んだよ」
それだけで充分だった。
後ろからうめき声が聞こえた。チラリと僕が見ると、男はだらしなく血をあらゆるところから
流しだし、表情は 顔が潰れていたためよく分からなかった。
その不甲斐なさに僕はまたトンフアーを握る手に力を込める。
その体勢のまま、何秒たっただろうか。
涼しい風が吹いて、煽られるように屋上をみる。
ああ、そうだ、あの子が待ってる。
暑い夏の日、遠くに逃げ水を見ながら僕は歩き出す。
「う、うっうぇ…ひっく…うえ…っ」
次から次へと涙が溢れて、止めようと思ってもしゃっくりみたいにそれは止まらなかった。
屋上に続くこの階段には幸いにも誰もいなくて、私は階段に座って手すりの壁を背にし、
ドアの窓から見える空を 睨みつける。
まるで私が世界から閉じ込められてるかのようだった。
悔しい!
私はバカな男にまたしてもひっかかってしまったのだ!
どうして私ってこう見る目がないのかしら、バカは私なのかしら。
そうだ、私がバカだったんだあんな男の言うこと信じるなんて!
「私が一番って言ったじゃないのよー…」
一目惚れだった。
声も顔も髪もスタイルも全て私の好みで、でもきっと私なんかとつき合ってくれるわけない、
って思ってた。
その一ヶ月前にも私は彼氏にふられていて。笑えるのよ理由が!
は俺なんかに勿体ないから、だって!
いやそれだけだったらまだいいのよ。
そんなこと言って、あいつ陰でこう言ってるの聞いちゃったんだから―
― …案外、ガード固くてつまんねぇ、やらせてくれないなら意味ねーよ、って!
ばかやろー!意味ねーよって何だよこら身体目的かこらぁ!うぐっ、ひっく、うわーん!
でもさぁ、彼は違ったんだよ、とっても優しくていつも気遣ってくれて。
私もバカだからさ、期待なんかしちゃったりしたんだぁ、彼ももしかしてって。
だから流れで告白しちゃって、彼も私のこと好きだって言ってくれた時は本当に嬉しかった。
でもね同時に少し恐くなったんだよ、また騙されていたりしたらどうしよう、て。
だけどそんなの杞憂に終わった。彼は私に手を出してこなかった。
いや、それはそれでどーよ?てお思いでしょ?
違うのよ、キス、は・・したの。すごく恥ずかしがってた。私、そんな彼がどんどん好きになっていった。
手を繋ぐ時もどこかぎこちなくてぎくしゃくしてるのが可愛くて、嬉しかった。
一番大事だ…一番好きだよ、て…。
「うく…ひっく…ひっく…」
何で、いつも私はこうなのかなぁ。どうして誰も私を愛してくれないのかなぁ。
私ほど愛を求めている人ってそうそういないんじゃないの。なのに神様は意地悪だ!ばーか!ばーか!
彼がぎくしゃくしていたのは、迷っていたからだよ!私以外にも好きな人がいたからだよ!
いつごろからか、好きだ、と言ってくれなくて最後に聞いたのは 大事だった、ていうその言葉だけ
どうして過去系?
泣いた、いっぱい泣いた。家でも泣いた。友達の前でも泣いた。慰めてくれる人はたくさんいた。
だけど私の好きな人はいない。
どうして私じゃだめだったんだろう、何がいけなかったんだろう。
どうして男って浮気できるの?どうして私はそうゆう男ばかり選んでしまうんだ!!
「うわーん!ばかやろー!こっちは今でも現在進行形で好きなんだよ!あほー!なんだよ!あっちの子の方があたしよりブスじゃんか!色気ねーじゃん!こんなに好きなのに…ひっく、好きなのにぃ…うっ、うっ、うぇっ…ぅぅー…」
人の悪口言うからダメなんだ、心が醜いからダメなんだ。きっと私を愛してくれる人なんていないんだー…
「ぅ、ひっく…うく…」
泣きすぎて頭がガンガンした。
上を向いている元気もなくて私は体育座りのまま膝に顔を埋めた。
そのまま暫く、涙を流す。涙は、枯れない。ずっと枯れない。
癒える時がくるなら、今すぐにでも来てくれればいいのに、きっと癒されるまで流す涙の量
がまだまだ足りないに違いないのだ。
コツコツコツ 誰かが階段を登ってくるのが分かった。
少しずつ涙がひく。 足音はすぐ私の横で止まり、隣に誰かが立っている気配がした。
柔らかい空気。
「まだ泣いてるの」
雲雀恭弥だ。
「…恭弥ぁ…わたしまたフラレちゃったよ」
「みたいだね」
「軽く言わないでよ」
「ごめん」
「謝らないでよ」
「分かった」
ふ、 あまりの素直さに少し微笑ましくなってしまった。
「あーあ、一発殴っとけばよかったよ。そしたらスッキリしたのにね」
「大丈夫だよ」
「何が」
「殴る必要なんて、ないってこと」
そういうと、
は、きょとんとして笑い出した。
そうだよね!殴る価値なんてないよね!そうだそうだ、と言ってあははと力なく笑う。
本当に、殴る必要なんてもうないんだよ、
。