好きだよ、大好きだよ、
一度でいいからお前からも 私に愛の言葉を!

兄弟としてなら何度でも言ってあげるよ、
愛してるよ

              … たぶんね。








家へ帰る道をとぼとぼと歩く。 今日、きょーや君が中学生になった。面倒くさがって、入学式には出なかった
らしいけど。
私はせっかくのきょーや君の晴れ舞台なので、こっそり見に行った。
あの子のことだから、きっとどこかで寝て暇をつぶしているんだろう。
中学校では桜が満開で、校門に続く道もとても綺麗だった。はらりはらりと、 花弁が散り、道はうす化粧した
かのようにかわいらしく。 春のこの時間は、穏やかすぎて誰もかれも夢の世界にいるんじゃないかと思う。
みんな、寝ている。
懐かしい校門を通り過ぎて、中庭の一番大きな桜の木の下まで行く。体育館からは少しマイクの音が聞こえた。
あの中にはぴっちぴちの新入生がいっぱいいるんだろう。 着慣れていない、制服を着て。緊張な面 持ちをして。

きょーや君は芝生の上に気持ちよさそうに寝っ転がっていた。
きょーや君はこの中学の制服が気に入らないらしく、一人違う制服を着ている。並盛は中学なのに制服が可愛い
からとても人気なのに、きょーや君は学ランが良かったみたいだ。 明るい色は目が痛くなるらしい。 でも
きょーや君には黒が一番似合うから私は賛成。きょーや君のために格好よく、学ランの裏に色々刺繍してみた。
殴られた。 でもその刺繍のために私は一週間、時間をつぶして指も少し怪我を負って完成させたのを優しいあの
子は知ってるから、その学ランは部屋に保管してある。

学校側は何も言わなかったのかなぁ。 今回、きょーや君はどんな手を使ったんだか。

顔をじっとみる。
黒い、きょーや君の上に桜の花弁がたくさん散っていてとても綺麗だった。

あんなに小さかったのになぁ。いつのまにかこんなに大きくなっちゃって。

オムツ変えてたのがついこの間のことのように思える。 手は相変わらず白くて綺麗だったけれど、少しゴツゴツ
していてやっぱり男の子なのだと思った。 もし、私が四つも年上でなければ、一緒に同じ学校通 えたのにな。
こんなにいっぱい大好きなきょーや君と離れることなかったのにな。 これからきょーや君はどんどん私から離れ
ていってしまうのかしら。やだなぁ 。 中学といえば女の子はお洒落に気を使い始める時期よね。きっと可愛い子
がいっぱいいる。 きょーや君は格好いいから、告白とかきっとされる。恐くてできなくても、きっとこの子に見
とれる子はいっぱいいるだろう。

やだなぁ。 やだなぁ、わたし、 きょーや君とずっと一緒にいたいよ。誰にも渡したくない 、好きなんだよ、
大好きなんだよ、悲しいくらいに。

「きょーや君大好きだよ…お願いだから女の子と仲良くしないでね」
「…何でいるの」
「あ、起きた」

むくりときょーや君が起き上がるとともに、ぱらぱらとかぶさっていた花弁が落ちていった。
まだ眠いのかぼーとしている。

「新しい友達できた?」
「なんなの、さっきから気持ち悪いことばかり」
「ふふ、そんなお前が大好きです」

群れることが嫌いなお前で本当に良かった。安心できる。 でもきょーや君は優しいところがあるから、いつか、
誰かそこに気がついた時 仲いい人ができてしまうかもしれないね。

「悲しくなってしまったよ。お前はとうとう中学生になってしまったんだねえ 、思春期の到来だよ」
「思春期ねぇ、僕が思春期…」
「お前の口から思春期って言葉が出ること事態不思議なんだけど…」
「僕も男だからそうなっても不思議ではないよ」
「ぅん!?…あー、まぁそうだけど」
「そーだよ」

きょーや君はまた、ぽて、と横になってしまった。私はその隣に体育座りで腰 掛ける。ここからは
並盛の校舎と体育館と校庭が少し、見える。 中庭は力を入れているのかたくさんの植物があって、私の
お気に入りだった。 高校は、あまりない。
今の言葉はどうゆう意味だろう。
きょーや君はまさか恋愛ごとに興味あるんだろうか。でもこの子が女の子に興味もつとこ見たことない!

昔、小学生のころ、二人で職員室に行く用事があった。その行く途中、渡り廊下で一人の女の子とすれ違った。
小学生なのだが、その身体は巨体で、ドンっとしていて片手には体育か何かで使うのか鉄の棒をいっぱい持って
いた。さらに肩には重いマットを丸めて担いでいる。縦も横も小さいきょーや君の何倍あるんだろう。 どしどし
と歩いていくが、女の子にしてはたくましい顔をしており、重さなんて感じさせないような飄々とした感じだった。
すれ違った時きょーや君がぽつりと「…すごい…」と言った。 それくらいだろう!きょーや君が女の子に興味を
持ったと言えば! まわりの子がきょーや君に興味を持つと考えても、きょーや君が女の子に興味を持ち始めるなん
て考えてもみなかった。
やだやだやだよ!

「だ、男女交際は校則で禁止されてます!絶対やっちゃだめだよ!昔から言っ てるけど校則はまもらないと…!」
「はぁ?」
「わたし、きょーや君に彼女できたら死ぬよ、生きてけない」
「それはなんとも後味悪い」
「私が世界で一番お前を愛しているからね、仕方ないよ。彼女欲しいなら私がなってあげる!」
「こんな人が僕の姉であることも仕方がないことなんだろーね。疲れた。寝る 。」
「おやすみのキスしてあげる」
「は」

ちぅ

きょーや君は眠いと、少しだけ反射神経が遅くなる。ぱぱっと唇にキスしたら 、きょーや君はびっくりしたよう
だった。 小さいころはいっぱいキスしてたけど、最近はあまりしてなかった。

「死ね」

そう一言残して、私に背を向けながらきょーや君は眠りについた。 可愛いなぁもう。
目にかからないようきょーや君の髪をさらさらとかきあげてみると、耳まで顔が赤くなっていた。
愛しいという気持ちを溢れさせるのはいつもいつもお前のせいなんだよ。

桜がはられ、はらり、と落ちて行く。時間の流れはとってもゆっくりだった。








むくり

僕は、べつに低血圧ではない。起きる時はぱっと起きれる。むしろ身体が先に起き上がっていて、あ、目が覚めたん
だと自覚するくらいに目覚めがいい。 でも少しぼーとする。まわりをみてみたら、まだ空は明るい。
でも学校にあまり人の気配は感じなかった。
どうやらあの入学式というやつは終わったようで生徒はもういないのだろう。 いるのは数人の教員だけかな。

しばらく、上からはらりはらりと落ちてくる桜の花弁をみていた。桜は嫌いじゃない。
でも、満開な桜より、僕は八重桜の方が好きだ。
満開な桜はどこか遠慮なく見えて僕はいらついてしまう。

一つの花弁を目で追っていると、それは隣にいる姉さん… の頭の上に落ちた。
姉さんまだいたのか。 どうやら、この人も眠ってしまったようで、膝の上に頭をのせているから頭には花弁が少し
積もってしまっていた。

じーと姉をみる。この人、今日はいつもにも増しておかしかったな。僕が中学生になったからだろうか。
僕はこの人の中ではいつまでも小さいままなのかな…屈辱だ…。僕にだって食欲・睡眠欲があるのだから、もちろん
性欲だってある。 いつかはきっと、性欲を満たすために女を抱く事があるだろう。
その時、この姉はどう対応するのだろうか。私を抱いてくれとでも言うのだろうか。
僕は、この人がどこまで本気なのかよく分からない。

頭に乗っている花弁を一枚一枚なにげなくとっていたら、姉さんの身体が少し ゆれて膝を抱えていた片腕がずる、と落ちた。
それとともに、スカートも大分際どい所までめくれてしまって、僕は直視してしまった。
すぐ目をそらしたけれどその映像が頭に残る。

四つも年上なこの人は、まわりにいる人間よりも発育がよく、僕はたまにこうゆう困った状況に陥る。
困ったと思い始めたのはつい最近だけれど。



「思春期なんて誰にでもあるんだよ」



あなたには絶対言えないことだけど。

僕はまた横になり、姉が起きるまで、背中をゆれて光る髪を見ながら過ごした 。 







(070203)