何度言えば分かるの
私が好きなのは きょーや君だけだよ!



うざい気持ち悪い 
姉さん、 僕が彼氏を探してあげようか。                  

大事なあなたのために。








「きょーおっやくーん!」

 がらがらがらがらーっ

「…姉さん…」

 ここは並盛中学、そして僕がいるのは応接室だ。
 そこに、高校に行っているはずの姉が平然と入ってくる。
 あれ、ちょ、なんでうちの制服まで着てるの。この様子だとまた学校に行っていないんだと思う。
 でも姉さんは、人前では決して僕にかまってこない。それは僕が死ぬほどその行為を嫌うからだ。人前でなくとも嫌なのだけれど。
 でもそのことを言うと、この人はとても暴れる。喚く。狂言を吐く。
 だから人前でない所でこの人が僕に構うのは仕方たのないことなのだ。
 可哀想な姉を持つと弟は苦労すると思う。

「ふっふっふ、これ見て」
「何これ」
「今さっきさぁ!商店街でくじ引きしてきたんだよ、そしたらこれが当たって! 有名洋菓子店の限定高級トリュフだよ」
「まさか、それだけのために…」

 姉の とは生まれた時からのつきあいで、もうこの人の思考回路パターンは分かっている。
 きっとそのトリュフを一緒に食べたいがためにわざわざまたここまで潜入してきたのだろう。
 なのでつい先回りした台詞が出てきてしまうが、はずれたことはない。
 でも、僕甘いの苦手なんだけどなぁ。

「これね、ビターだからきょーや君もきっと食べれるよ。 前にきょーや君がおいしいって言ってたとこのお店のだしね」

 姉も僕の思考回路は大体読めるらしい。色々話ながら、チョコのつつみを開けていく。
 お気に入りのお店のチョコと知っては、ためらう必要もない。
 今急いでやらなければならない仕事もないし、委員達も当分ここにはこない。
 休憩しよう。僕は立って、紅茶を入れることにした。
 コトン、と包装をとりおえたチョコの箱をテーブルに置く音がする。

「先食べてていいよ、紅茶準備し始めたばかりだから」
「きょーや君と一緒に食べるよ」

「好きな人と食べる方が何倍も美味しいからね」

 こうゆう時、僕はいつもため息をついてしまう。またか、と。
 慣れたものだったけど、やはり気恥ずかしいものがある。いつまでこの人は弟離れができないんだろう。
 僕に好きな人ができたらどうするつもりだ。
 この超がつくほどのブラコンには口がさけても言えないけれども、いつまでも僕中心に生きられては困る。
 姉さんは何でも僕に相談したり、その日一日あったことをいっぱい話す。
 その中に浮いた話は一度もなかった。

「はい、熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます!きょーや君はお茶いれるの上手いよね、嬉しいよ」
「どういたしまして」
「んーおいしーっ幸せー」

 幸せそうな顔をする。
 お茶なんて誰が煎れても同じだと思う。僕だって別にこだわっているわけじゃないし。
 それでもこの人は僕が煎れたお茶が一番上手いと言う。あほだなぁ。
 姉さんは満足そうにカップを置くと、小さなフォークで柔らかそうな固そうなココアがたっぷりついたトリフにさして、僕の目の前まで差し出した。

「はい、あーん」

 …あほだなぁ。

「やめて」
「えええっいいじゃん一回だけっ」
「ほんとやめて」
「えええー…」
「うざい。やめろ。自分で食べる」

 姉さん、僕中学生です。

 どうして姉と、そうゆうことをしなければならないのか。別に飢えているわけでもない。
 僕は姉さんからフォークをとりあげて、自分で食べた。
 うん、美味しい。甘いけど苦い。こうゆうのは好きだ。
 しかも濃くなくて、これなら何個でもいけそうだ。
 ちょっと不機嫌になってるかなと思って姉さんを見てみれば、なぜか嬉しそうな顔をしていた。なんでだ。

「ふっふーフォーク一つしかないの。だからきょーや君があーんしてね!」
「えええー…」

 そうゆうわけか。
 僕はそっとフォークを姉さんの方に置いて、行儀悪いが二つめのトリフを指で つまんで食べた。
 わお、一つ一つ味が違うんだこれ。
 姉さんはがっかりしていたが、「間接キスー♪」とも喜んでいた。何を今更。

「これ美味しいね」
「きょーや君にそう言ってもらえて幸せです。何か指で食べてるのエロイね」
「ねぇ、これ、全部僕が食べていい?」
「ううそっごめん冗談!」

 急いで姉さんも食べ始めた。 しばらくは二人でトリフに夢中になった。
 飽きてきたころ、紅茶を飲みながら 話を切り出してみた。

「ねぇ、高校行かないの」
「行ってもつまんないんだよー、きょーや君いないしね。小学校の時は幸せだ った」
「4つ違いだからね、仕方ないよ」
「私、留年しようかなぁ。きょーや君と、同じ学校通いたい。そしたら毎日ちゃんと行くのに」
「…あのさぁ、高校にいい人いないの」
「は?」
「彼氏でも作れば?そうしたら高校生活楽しくすごせるんじゃないかな」

 ただし、僕の前でいちゃつかないでね。いくら姉さんでも群れるの我慢できな いから。
 そう続けて言おうとした、が、ぎょっとして声が出なくなってしまった。
 姉さんが今にも泣きそうな顔をしていたからだ。

「そ、それっ、…前にも言った、よね」
「うん…」
「ひどいよ、わたし、きょーや君ひとすじだっていつも言ってるじゃん!」
「そうだったね」
「きょーや君だけ、いればいいよ」
「僕は」

 だめだ。言えない。
 泣きそうな顔、は第三者が見たら、とてつもなく悲しそうな顔のことだ。
 姉さんは、泣き方をきっと忘れてる。だからどんなに悲しくても嬉しい時でも 、言葉はどもるが目が潤いさえしない。
 前に嘘泣きをされたがすぐに見抜けた。そうか、僕はその時と同じ質問をまたしてしまったのか。
 今は目薬も持っていないのだろう、どうしよう本当にこのまま泣かれたら。

「僕は…」

 言葉につまる。
 ふとフォークが目に入った。この仕方のない人は、今僕がなにか言ったところで恋人なんて作らないだろう。
 少し計画性がなさすぎたな。 僕は姉さんを見る。僕が何言うのか気になって、不安になっているようだった 。
 はぁ。

「ね」
「…何よ。僕は、の続きは?」
「はい、あーん」

 その瞬間、パッと姉さんは顔をあげた。目が丸い。目の前に出されたトリフに 気がついて、フォークと僕の顔を交互に見た。

「どうぞ?」

 ぱぁーと、ほんとにまさに花が咲いた・・かのように笑った。(姉に対してこの表現は、なんとなく気持ち悪いものがあるな)

「……どうも!」

 ぱくっとフォークに噛み付いた。少し可愛いかな。

「うあーっ美味しい、美味しい美味しいよぅ、嬉しいよー!」
「は、大げさな」
「嬉しいよー!きょーや君が私の愛に答えてくれたよー!」
「幸せな人だねぇ」

 なにかもう、恋人の話はいいや。泣き顔を見なくてすんだし。僕は少し、姉の泣き顔に対してトラウマがあるようだ。
 きっとこの人が泣いたらこの人以上に悲しくなるのは僕に違いない。
 素晴らしい兄弟愛だ。と思うと笑えてくる。
 姉さんはよっぽど嬉しいのか、始終にこにこにやにやしっぱなしだった。
 僕はカップを片付けるために立ち上がる。 その時、窓から校庭をのぞいてみると委員達の姿が見えた。
 そろそろ時間だ。
 僕の仕草を見て、姉さんも窓から外をこっそり見た。
 カップを流し台に置き、水で洗い流す。姉さんは前に、2度ほど割っているで、こうゆう仕事は僕だ。
 いやこうゆう仕事も?
 今日はこの後、委員会があるんだったな。その前に、軽く見回りの報告でも聞いておくか。
 最近つまらないなぁ。何か起こればいいのに。いやいや、冗談。
 この平和が続けばいいのに。…。心にもないことだ。

「ねぇ、きょーや君」
「ん」
「あの人だれ、なんか口に草くわえてる人」
「草壁だよ。副委員長。中々使える」
「ああ、あの人が。いるのねぇ、リーゼントってだけでも珍しいのに」
「しかもが学ラン」(あれ、人のこと言えないか?)
「 なんで下駄じゃないのかしら」
「うるさかったから」
「あ、やっぱ下駄だったんだ…わお」
「姉さん、そろそろ」
「うん、分かってる。でもあの人背高いね、しかもビジュアル的にギャグだから面 白そうだわ」

「もし冗談で彼氏作るなら草壁君みたいなのがいいねー」


  ガチャン


「ぎゃーーっっ、きょ、きょーや君けがしなかった!!?うわーっ白い奇麗な手に傷がっ傷がぁぁ!」
「だ、大ジョゥブ、怪我してない、しかも割れてない」
「ほほほんとに!?あ、ほんとだ…よかった…びっくりした…」
「ねぇ、ほんとにもう時間ないんだけど」
「あっわっ、ごめんね!それじゃあ私先帰るね、ちょっときょーや君が心配だけど」
「早く行け」
「ははいっそれじゃ今日も頑張ってね!大好きだよきょーや君愛してるよーっ またおうちでねー!」

 ガチャっとドアを開けて、パタンとしめて、廊下をパタパタ走る音が遠ざかっていく。
 僕は、カップをいつものところに戻して、チョコの箱は姉さんが持って帰ったらしくすることがなくなったから ソファにどかっと座った。
 
 びっくりした。

いや、冗談なんだけど、冗談って言ってたけど、まさか草壁と、え、草壁?姉さんのタイプ?あれが? いやいや冗談でって言ってたし 面白そうだからって言ってたし、うん。でも冗談だったらつき合うのか。まじか。 姉さんと草壁か、想像もできない。いや、姉さんに男を作ればと言ったのは僕 だけど、草壁はダメだろう。時代錯誤もいいとこだろう。 いやでも草壁は、使えるやつだ。この無能だらけの学内で、僕の目に止まったんだから。見た目あんなんだが頭はいい。 あれ、何考えてるんだぼく。姉さんは冗談で言ったんだからここまで考える必要ないんだよな、そうだ。バカが僕に伝染した。 僕までシスコンになってみろ、変態兄弟の誕生だ、僕は断じてそこまで――…

「おぉぉっす!委員長、見回り行ってきました!とくに目に余ることはありません!」

「草壁、丁度いいとこにきた、君、金輪際リーゼントやめて、草を口にくわえるのもやめろ。あと、平成に生まれ直してこい 。それとついでにその二重あごもなおせ。とにかくまともに生きろ 。または死ね」

「え!!!委員長、いきなりなに」
「いいから、早く」
「むむむ無理です!! げ、ぎゃぁあああーーーーー……」





 弟としては、早く僕以外の好きな人を見つけて姉さんに幸せになってもらいたい。

 けれど、それは、僕が姉さんにふさわしいと認めた人だけだ。

 シスコンとは言わないだろう、恋人を作るよう計画立てているわけだから。

 とりあえず、恋人の条件。

 それは僕より強いこと、そして 姉さん…
 
      に一番美味しい紅茶を煎れられる人である。



(世の中に僕以外、そんな人がいるのか分からないけれど)





                                  TOP




070204