靴が使えなくなっても、爪がはがれても、
足がもげても
わたしはずっとずっとずっと
ずっとずっとずっと追い掛けるよ
。
だって、とてつもなくお前を愛してるから!
肩から上着が落ちても、
ついに首を捕まえられたとしても、
さらにそれが
もげてしまっても、僕は逃げる逃げる
逃げる逃げる逃げる逃げる!
どうか、僕以外の人を愛して幸せになって下さい
お姉さん。
私とあの子は四つ離れててね、小さいころはそれはもうとてもとても可愛かったの。
オムツつけてふりふり歩くきょーや君、わたしがオムツ変えてあげてたわね。
お前、覚えてる? 始めの言葉は「 ちゃ」よ。 夕暮れ時、出かけていた私は 家に帰ってきてなんとなく縁側の淵に座っていた。 夕日でも見ながらぼーとしていたのね。 そしていつのまにか側にいたきょーや君が、こっちをじっとみながら言ってくれたのわたしの名前を。 どうしたのお前、ばあやは? て聞いたら、 「 ちゃ」 ちゃー、 …、ん、 ちゃっ、 ちゃー 淋しかったのか背中にギュッて。 あの時どうしてビデオをとっていなかったのかが悔やまれるわ!とにかくあの時私は思ったの。 お前には私しかいないって! ぎゅうって両手でせいいっぱい抱きしめたら、きょーや君はすごい柔らかくて ふんわりミルクの幸せそうな匂いがしてすごく可愛かったよ。 話せるようになってもチャチュチョばかりな舌ったらズで、とくにサ行!かみ ころチュ、勝手にしゅれば、ちょーちょくどうぶつめ! 意味わかってないところがまた馬鹿で、かわいくて、そんなお前を連れて近くの土手を歩くのが当時の私の幸せだったよ。 小さなきょーや君を守れるのは私だけだから、社会の強風にあたって倒れない よう盾になって、飢えないよう御飯を作ってあげてどこぞの変態に襲われないようトンファー仕込んで、私を愛してくれるようたくさんたくさんたくさん愛を注いで、 そうしてお前は今や波盛一たくましい男になった! 私のお陰なんじゃなぁーい? だからさぁ、お願いだよ。名前で読んで って!愛しの って! |
物心ついた時から、姉さんは僕にべたべたべたべた…僕が姉さんのあとを追い
かけていたんじゃない。 奴がいつも僕の行くとこ行くとこについてきてはべたべたしてきたんだ。 生まれた時からそうだったらしいから慣れたものだったけれどさすがにご飯のたんびにスプーンを持って「はいあー ん」て、するのは勘弁して欲しかった。 あと一緒にお風呂入ってくるのも勘弁してほしかった。 思えば、思い出の中の姉さんはほんとに幸せそうで僕中心に生きていたと思う。 彼氏なんていなかったな。いらないの?て聞いたらひどいって泣かれたっけ。 僕ひとすじなのにって。 ばかじゃないの。 ほんとにどこまでか本気なのか分からない人だった。それは嘘泣きだったから。 本当に泣いたところは見たところがない。 いつも笑った顔ばかりで、口を開けば僕のことばかりで、僕とは似ても似つかなくて 周りからは本当に兄弟なのかって噂があったほどだ。 それは、僕が笑わないからという理由だけでなくて、姉さんはこの家に生まれ たにも関わらず馬鹿で、何一つできなくて、それこそ料理から帝王学まで。何もできなかった。 その分僕が期待されていた、と思う。たぶん。いつも姉さんがそばにいたから大人のことはよく知らない。 ただ、ほんの時々、「やっぱり女だから…」ていうのが聞こえた気がする。 この家には姉さんより馬鹿が多すぎるな、て思った。 そんな中で、あの人の泣き顔は本当に一度も見た事がなかった。僕がもの心ついた時、姉さんは8歳で、まだまだ子どもで、なのに。 ただ、記憶の中で泣きそうだった姉さんだけは覚えてる。もの心つく、もっと前。赤い、真っ赤な映像、たぶん夕暮れ時だったんだろう。 その中にポツンと姉さんの後ろ姿があった。その洋服はぼろぼろで、ところどころ血が出ているのが見える。 何をしてきたのか分からない。ただ、ひどく悲しくなったのを覚えている。 どこかに行ってしまいそうな、いやすでに遠くにいる人のように感じて、ただ 僕は。 それからだったような気がする、磨きをかけて姉の がものすごく過保護になったのは。 |
「
、初めてお前一人の仕事だ。できるな?」 |
小学校に入っても姉さんの過保護はもちろん変わらなくて、僕が学校で喧嘩をする度に授業中にも関わらず姉はやってきた。
(なんで教室も階も違うのに知っているのか、怖くて追求はできない) そして僕がぼこぼこにした相手をさらにぼこぼこにしていた。 その頃から、僕はトンファーを使いだした。 姉さんが突然、「お前の童貞は誰にもやらない!」とか言いながら僕に教えこみ始めたのだ。 なんで姉さんがトンファー使えるのだろう、まぁ、うちじゃそんなこと不思議ではない。 姉さんは弱くて、すぐに僕の方がうまくなった。でもトンファーを扱う技術は姉さんの方がうまかった。手先器用なのかな。 でも色んなことを僕に教えてくれた。 ほんとうに余計なことまで。何が悲しくて姉にキスやセックスの仕方を教わるのだろう。 向こうが勝手にやりだしたことだけれど、実践はほんと勘弁して下さい。僕も 思春期なんです。馬鹿だ。どっちも。 童貞はなんとか守った。 一度だけ姉とは違う女に告白され、いきなりキスされたことがある。女の方は もう覚えてない。 記憶にあるとすれば、血だらけの女の姿だけだ。犯人はもちろんすぐ分かった 。 あの人がやらなくても自分でできたのに。 でもその時、何が怖かったって姉さん自身だ。 またしても姉さんはもう高校生のくせになぜか小学校にきていて。思えば、たまに 2、3日外出していたり僕につきっきりだったりしてほとんど学校いってなかったんじゃないだろうか。 いや問題はそこではなく。 女を睨みつける姉さんの目は、一瞬にして周りが黒く染まるように、全身を氷づけにされたように、ぞっとさせるものがあった。 そこには醜いも美しさもなく(姉さんはなかなか美人だった、んじゃないかな。 身内だからなんともいえない。)、まさしく般若のようで。 でもそれでぞっとしたんじゃない。悲しいことに姉さんは本気で僕の事が好き なのだと、知ってしまったから。 おかしいと言えばおかしい。世間的には。ふつーはそうはならない。 しかし僕のうちはちょっと普通ではなかったしそうゆうことも あり得たのかも知れない。 それを置いておいたとしても僕にとってあの人は姉さんでしかなく。 その本気が重く感じた。 いや、姉が重く感じたなんてその時に始まったことじゃないけれど。 ただ、僕に想いが叶わなく、そうして泣く姉の姿は想像することもできなかっ たわけで。 だから中学生になった僕は、風紀委員になって姉さんにふさわしい人を探して みることにした。 校内に留まらずもちろん外も 姉さんには普通に恋愛をして結婚してほしいと思ったから。 以外と姉想いな僕だ。 |
パンパンパーンと頬を殴るどころじゃなかった。 |
中学に上がる前の一時期、姉さんはとても静かだった。 僕が、見知らぬ女の子に告白された後だろうか。理由は、なんとなく分かる。 けれど中学入ってからは、姉さんは前よりいっそう笑うようになって、いっそう僕に構いだしてうざくなってきた。ふっきれたのだろうか。 ただ、時々姉さんはとても悲しそうな顔をする。 僕は、姉さんのために姉さんを幸せにしてあげられるやつはいないか探した。 けど、中々いいやつが見つからない。 まず僕より弱いやつは却下。頭悪いのも却下。中学に通 う中で色んな奴に出会った。 むさ苦しい男は却下。一見弱そうなんだけどたまに強くなる、でもところかま わずパンツ一丁になるTPOわきまえない男も却下。 野球のことしか頭にないやつも却下。煙草吸うやつなんて論外。姉さんは喉が 少し弱い。 こいつは中々いいかも、というやつはいた。たぶん悔しいことに僕と同じくらい強いかそれ以上で、女を大事にしそうだ。 でも赤ん坊なんだよね。よって却下。 クフフとか笑うやつはもう存在自体消えてしまえ。 あまり姉さんにふさわしい人はいなかった。 そんでなんかどたばたが色々あって。いつのまにか、なんか雲のリングとかも らっちゃったりして。 マフィア?よくわかんないけど面白そうだからまぁいい。僕は高校生になって 、姉さんは二十歳になった。 二十歳になった姉さんの元にはたくさんのお見合いの申し込みが殺到したのだ けど、姉さんはどれも受けることはなかった。 「きょーや君が好きだからね!」 頭が痛くなった。姉さんが結婚しない限り、僕のこの頭痛は止まないと思う。 姉さんは相変わらず、時々とても思い悩んでいるようで悲しい顔をしていた。 だけれど案外、僕の頭痛は早くなおった。 大学卒業した姉さんは、忽然と消えたのだ。その名の通り。僕の目の前から。 ただ、消える直前の姉は、とても幸せそうだったのを覚えている。 僕はそもそも頭を痛める必要なんてなかったのだ。姉さん… には愛する人がちゃんといた。 お父様 お母様 そして最愛なる弟、恭弥君へ は本当に愛する人を見つけました。覚悟を決めてその人とともに歩みます。 この家にはもう戻りません。 今までありがとうございました。 父は激怒した。母は泣いた。お金がパァだ、と。 なんのことかはよく分からないけれど、怒る理由は泣く理由はそこなのか?と 思った。 ただ、僕は実感湧かなくて、湧かなくて湧かなくて。 だって姉さんと会わない日はほとんどなくて、まして抱きついてくるなんて日 常茶飯事。 家にいない時だって何通もメール送ってきて。 そんな姉が?嘘だろう?嘘だ。 そう、嘘。嘘に決まっている。 そう思って、そこらにいる適当な女とつき合ってみても、べつに女は血塗れに なることはなかった。 妙に激しく腹がたって、殴って、その後は知らない。 もう、知らない。むかつく、むかつく。 あんなに。僕に構っていたくせに。 僕を置いていくなんて。 あの人に恋人がいたなんて僕はこれっぽっちも知らなかった。 もうあの腕は声は笑顔は、見ることはない。僕の知らない誰かのものになって しまった。 知らなかった。 なんてことだ! 最愛なる弟だって、なんて笑わせてくれる。 あの人が僕を弟と称したのは初めてだ。笑えてくる。 最愛なる姉よ、僕は君を、今とてもぐちゃぐちゃに殴り殺したい。 |
「らんらんらーん♪」 |
僕は高校を卒業した。 卒業と同時にマフイアというものになった。中々面白い 仕事だと思う。 日本にはもう探すところはなかったしそれは丁度いい取引でもあったんだ。世界に行ける。 日本にはあの人はいない。しらみつぶしに探したけれどどこにもいなかったか ら。 不思議なくらい姉が日本にいた痕跡がなく、あの姉のどこにそんな知能や技 があるのだろうと初め思ったものだったが我が家の裏家業を知って、なるほどと思った。それと同時に許せないと思ったこの家が。 今でも時々ふと思い出す。 あの人の寂しそうな後ろ姿を。夕日に照らされた血だらけの姉。そして遠い人。 あの泣きそうな瞳はこれのせいだったのかと。そしてそれは僕のせいでもあっ た。 こんな家を出て行った姉さんは正しかったと言える。ただ、僕を置いて行くと いう間違いを犯したけれど。 ああ、やっぱり間違いだらけだ、姉さんもこの家の子だ。嘘つきだ、天性の。 あの人に才能があるとしたらそれは嘘をつくこと。 僕を置いていってしまったのだから。 ふと、首のまわりに感じたあの暖かい腕はもうないのだと思い知る。 毎日、毎 晩聞かされたあの声も、もうない。 愛してるきょーや君、好きだよ、お嫁さんにしてね、世界で一番愛してるよき ょーや君、どこにもいかないでね、きょーや君 好きだよ、世界で一番愛してるよきょーや君、、愛してる、世界で一番、結婚しようね、 きょーや君、愛してる、きょーや君、わたしを置いていかないでね、ずっとい てね、世界で一番愛してるよ、愛してるきょーや君、 好きだよ、お嫁さんにしてね、きょーや君、どこにもい かないでね、きょーや君、きょーや君、きょーや君、 きょーや君、きょーやくんきょーやくんきょーやくんきょーやくんきょーやく ん 世界で一番愛してるよ 耳鳴りがひどくてひどくて僕は何度も眠れない夜を過ごした、気持ち悪い、まるで麻薬だ。 とんでもないものを残してあの人は去った。今頃、恋人と幸せになっているの かと思うと、吐き気が止まらなくなった。 胸も脳みそも腸も何もかもぐるぐる回ってて、鳴り響く音はあの姉の甘ったるい囁き。僕は中毒者に違いない。 だから探す、探して探して探しまくる。 見つからなくてもずっとずっとずっとずっとずっとずっと追いかける。 たとえ足がもげても。 頭痛はひどくなる一方だ。 姉さん… 、 が 見つからない |
「よ!久しぶり、リボーン君。大きくなったねえ」 「お前は相変わらずだな 、俺の愛人になる気なったか?」 「君まだ7歳でしょう。それにもぅ!そんなことしたらきょーや君にばれちゃう じゃない!」 「お前もよくやるよな」 ここはアメリカ。陽のよくあたるカフェで待ち合わせしたにも関わらず、俺たちは日陰の、目立たない所に座る。 たまたま視察でアメリカに来ていた俺は、たまたまアメリカで仕事していた に誘われ今こうしてここにいる。 は相変わらずスラリとした体躯で、日本人だからか周りの人間より小さめだがとてもチャーミングだった。 とても20代後半に突入したとは 思えない。 雲雀 と会ったのは3年前、雲雀が高校三年でこいつが22歳の時だった。 雲雀がどうやったら本格的にマフィアに入ってくれるか計画を立てている時だった。 あいつんちは、小さいとはいえけっこう裏的なこともやっていた家系でしかも 雲雀はその跡取りだったからな 引き抜くのは容易じゃない。そんな時にこいつからの申し出。 「わたしを逃がすの手伝ってよ。そしたらたぶん、本当たぶん私の願望でもあるけどあの子ついてくるために、君の力借りるよ」 世界を探すのはさすがにあの子だけじゃ無理だろうから。そしたら取引っつー ことでボンゴレにきょーや君を引き込めばいいんじゃない? すぐにこいつはあのブラコンの雲雀 だと分かった。こいつのブラコンぶり は有名だったからな裏の世界で。 表じゃ雲雀がこの姉の存在を隠していたから誰も気づかなかっただろう。 雲雀が姉をどう思っているかなんて俺は知る由もなかったけれど 俺はそいつの誘いにのった。どっちにしろ、ボンゴレ側にマイナスはないんだ。 それから俺は、 の願望通り 必死こいて を探す雲雀をツナの部下に引き込みそして計画通り本拠をイタリアに移した。 ボンゴレの力を使っても、なかなか優秀なスパイだった を見つけるのは難 しく、それなのに少しの協力を得るだけでほとんどは 彼自身が世界各国を探し歩いていた。 は暗殺を止めたが今でもスパイ活動は続けていたから、ほんの少しだけ足跡が残るのだ。 それを嗅ぎ付けては雲雀はその地に血相を変えて赴く。 そして探す、ただ一人 の姉を、女を。 「狂気じみてんな、お前ら兄弟」 「知ってる。きょーや君をそう育てたのは私だわ」 うっとりした顔で は言う。恋する女の顔だった。 こいつは雲雀恭弥に追いかけてもらうために駆け落ちをするという猿芝居までした。俺にはわかんねーな。 「ね、向こう見て。あのビル。こっそり見てね」 「あ?」 窓から近代の産物巨大ビルを見る。全面ガラス張りで窓からじゃてっぺんなんてとてもじゃないが見えない大企業。 それは、この間まで がOLとして働いていた所ではないだろうか。もちろん スパイ活動の一環。 盗んだデータは既に依頼者の元だ。あと2、3日もしないうちにこの会社は倒 産においやられるんだろうな。 そんなことも知らずに会社に出入りする多くの人間、だがそこに見知った顔を見つけた。 雲雀だ。 ビルの中に入って行く。 何やってんだあいつ、と聞くのは野暮なこと。 「ちょっと早くなったんじゃないか?」 「うん、そうだね。事が表に出る前にまた嗅ぎ付けられちゃった。そろそろまたやり口変えないと」 「本当、何のためにやってんだ?この意味のない芝居。お前の願望通りじゃねーか」 「だってあの顔見てよ」 言われて、会社のゲートを見る。10分ほどしたら雲雀が出てきた。…吃驚した。 あいつのあんな顔初めてみた。 今にも泣きそうな、怒りだしそうな、人を殺しそうな(言い過ぎか、いややりかねないか?)、とにかく全てが憎いというような、 美しくもなく醜くもなく般若のような顔をしていた。 「あの顔、知ってるのよ、私」 わたしもしてたからああゆう顔。 「あの顔をさせたいからお前はこうして逃げ回ってるのか」 「そうだよ」 「なんで」 「ゾクゾクするの」 「…」 「ゾクゾクするの、すごく」 そう言って笑う、彼女の顔はやっぱり狂気じみていた。 |
お前がね、愛してないって知った時、わたしの心の中でガチャンって何かが壊
れてしまったんだよ。 |
狂気ていうかもう狂喜的な劇だよな、は! と、誰かの笑った声がしたような気がした。 |