「なぁんでだろなぁ…、なんで雲雀さん…うちの姉ちゃんにあんなにベタ惚れなんだろ」
夕焼けぽろぽろ
昼休み教室から、中庭を見る。そこには雲雀さんに追いかけられている姉の姿があった。
今日は一体どんな理由で追いかけられてるんだか。
雲雀さんの手にはいつものトンファーではなく箸が握りしめられていて、姉ちゃんはお弁当を持って逃げている。
なんとなくどんな理由だかは想像できた。
初めて、そんな雲雀さんを見たのは中学の時だった。 別の中学に通っていた姉ちゃんと、雲雀さんがうちで会い、
そのころからおかしい雲雀さんが見れるようになった気がする。
よく分からないうちに二人はあんな風になってしまって、隣町の黒曜女子高等学校に進学予定だった姉ちゃんは
なぜか俺と雲雀さんと同じ並盛高校に来た。
「だ、騙された…!」と小さくつぶやいた姉の言葉が忘れられない。雲雀さんが大変ご機嫌だったことも。
雲雀さんがなぜかうちの姉ちゃんにベタ惚れなのは分かるんだけどなぁ、なんか、ほら、弟としては複雑。
あまり祝えない。
だって…
「綱吉ぃぃ!」
がららっと戸を開けて、半泣きなまま姉ちゃんが教室に入ってそのまま俺の隣にやってくる。
皆は何事かと、俺たちの方を見た。ちょ、恥ずかしい!姉ちゃん離れて!
さらになんと、雲雀さんが 姉ちゃんの後ろからやってきたからたまらない。
右手には箸が握られてて左手には俺と同じ弁当、つまりたぶん姉ちゃんの弁当があった。
あ、ああ、やっぱりまたとられてる… 雲雀さん、大分ご満悦な顔して食べてるよ、美味しいのかな。
「この卵焼き美味しいね」
(え、ええええっそれ俺作ったやつ!俺作ったなんて言ったらころさ)
「それ綱吉が作ったやつ!この子卵焼きだけはうまいのよーへへへ」
(お姉ちゃーーん!)
姉ちゃん、俺の心を察して!俺と微かでも血が繋がってるならこの魂の叫びをお願いだから受け止めて!
と言っても、我が姉ながらどこかぬけているのでそんな望みは皆無なわけだけど。
雲雀さんは、俺が作ったと知るやいなや複雑な顔をしておもむろにポケットからティッシュを取り出し、吐いた。
ちょ、ひどくないっすかそれはさすがに。
「ぶえ!激まず」
「なによーっそんなこと言うなら返してよ!私のお弁当なのにひどいよ!」
おなかすいたーっおなかすいたーっと喚く姉ちゃんを見て、雲雀さんは嬉しそうに弁当を平らげていった。
こんな雲雀さんの笑った顔は逆に怖い、とても怖い、普段とのギャップが激しいゆえに。
むしろいつもみたいに怖い顔の方が落ち着くようになってしまった俺。
クラスを見渡せば皆、なんともいえない顔をしながら静かにご飯を食べていた。ごめん、皆。
「 、この世は弱肉強食なんだよ」
「えーっ!…なるほど」
えええええ、姉ちゃん納得しちゃうの!? 何素直に頷いてるの!?
え、ていうか俺の弁当見つめてない?よだれ垂らして見つめちゃってない? え、やらないよ、これ、俺のだもん。
いや、俺のだから。俺見つめてもだめ。あっ箸が奪われた!
あの俺並みにとろかった姉ちゃんが!この素早い動作は、雲雀さんに追いかけられて身に付いたのか!
ていうか姉ちゃんの願いを弟としては叶えてあげたいけど すぐ後ろに雲雀さんがいるじゃん!
「つっな吉君♪お姉ちゃんはあっちの風紀委員長さんみたいなことはしないから仲良く一緒食べよっ」
「…」
ここで断らなければ俺の命はない。
微笑ましく笑う姉ちゃんの後ろには、きっと悪魔だってひざまずくに違いないような顔をした雲雀恭弥がいた。
一ミクロンたりとも笑っていない、まるで骸の人間道発動みたいな何か黒いもやもやとしているものが出ている。
む、むくろ今ならお前の気持ち分かる!人間道って一番、こわ、い、ね!(ひぃぃぃぃ)
そんな空気を読めない姉ちゃんはあろうことか、おかずのカニクリームコロッケを箸で割ると俺に向けて
「一度やってみたかったんだ(笑)はいあーん」
(笑)えるかぁぁぁ!!
何のんきに(笑)とかつけてんだよ!
もうそれより俺は…俺は…終わった。
箸が俺の口につく瞬間、きっと誰にも見えないだろうがリボーンのおかげで力のついた俺はなんとか見える
すごい早さで 振り落とされるトンファー。
それが俺が最後に見たものだった。
「彼は、突如、疾風にでも襲われたようだ」
「綱吉ぃぃぃ!」
完璧フェードアウト。
だから俺は、嫌なんですよ
雲雀さんがどんなに姉ちゃんのこと好きだったとしても。
いつも迷惑被るのは俺なんだから…
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ふと、目が覚めたら俺は淡いオレンジに包まれていた。
ああ、違う、保健室だここ。
夕方なのか、白いカーテンや白い天井が淡い、暖かいようなオレンジに染まってる。
ふわふわする感覚なのはここが保健室だからか、俺がずっと寝ていたせいなのか。
あれ、何で俺、寝てんの?昼休みから記憶が……あ、そうか。うん。そうだった。
俺はなぜここにいるのか、昼の出来事を思い出してげんなりした。
横の、服とか荷物を入れるバスケットをみるとそこにはたくさんのフルーツゼリーと花束があった。
あとなんか、悪霊退散、みたいなことが書かれたお札まであった。 獄寺君がきてくれたんだろう。
雲雀さんが疾風とかって言ったから獄寺君なんかはかまいたちかなにかだと勘違いしたに違いない。
ていうか俺の知り合いに、こんなのくれるやつ、獄寺君しか知らない。 あと、野球ボールも見つけた。山本だ。
しかし山本は俺に何を求めてるんだ、お見舞いに野球ボールて。
俺のまわりにはつくづく変なやつが多いよなぁ、と思ったけど俺は心まで暖かくなるのを感じた。
いい友達を持てて、俺は幸せだ。
元気になったから起きようとしたら、保健室の奥の方から「カタン」―――…小さな音が聞こえた。
誰かいるのかな…。
そっとカーテンを開けて、見てみると窓わくに腕を置いて眠る姉ちゃんがいた。
隣には雲雀さんが立って、姉ちゃんの腰より上あたりまである髪を優しくすいていた。
風が少し吹いているのかカーテンが揺れている。
暖かな夕焼け色に染まった二人は、まるで恋人同士のように見えた。
雲雀さんが今までにないくらい、優しく、優しく、姉ちゃんに笑いかけていたから。
まるで大事なものを見つめるかのように、甘いものを見つめるかのように。
ふと、雲雀さんの手がとまる。
そのまま一房髪を救いあげ、雲雀さんは優しくキスをした。
「 …愛してるよ 」
まるで映画のワンシーンをかいま見ているよう…。
俺は、二人が本当に俺の知っている雲雀さんと姉ちゃんなのか分からなくなってしまった。
もう俺だけの姉ちゃんじゃないんだ…胸が少し、痛んだ。
でも俺幸せだよ。姉ちゃんのことここまで想ってくれる人、いないんじゃないかな。
「ひば、りさん…」
気がつけば俺は小さく雲雀さんを呼んでいた。
雲雀さんがゆっくり振り向く。
「…不本意ですけど、姉を宜しくお願いしますね」
案外、この人との付き合いは長いけれど俺はその時初めて、毎日姉に向けている 本当の笑顔を見た気がした。
「ちなみに姉は手強いですよ」
「――…知ってる」
(070205)